ショパン:バラード1番 Op.23【ピアノ曲解説|楽曲構造と演奏ポイント|書込み楽譜付】

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前置き

ショパンの代表作の一つで、映画「戦場のピアニスト」の作中にも演奏されていた名曲です。叙情的で物語が進行していくような自由形式なので、細かな指のテクニックだけではなく全体としての音楽の流れや構成を注意深く計画しコントロールする必要があります。

ショパンは「バラード」の名を冠する曲を4作品作っていますが、どれもポーランドの詩人ミッキェヴィッチの詩から着想を得ています(諸説あり)。この1番は「コンラット・ヴァレンロッド」をモチーフに書かれており、主人公コンラットが祖国(現在のリトアニア)のために宿敵の軍へ潜り込む、という復讐と裏切りの悲劇的な内容が描かれています。

「バラード」はショパンで明確に確立された一つのジャンルとなり、比較的自由な形式で作られることが一般的ですが、このバラード1番はソナタ形式として構成を考えると分かりやすく解釈ができます。

上級向けの曲であり、独学でこの曲を弾きこなすには多大な努力が必要ですが、少しでも参考になればと思います。

参考演奏


冒頭〜第1主題(提示部)

冒頭の力強い「ド」の音は、これから始まる波瀾万丈な物語の予兆を感じさせられます。重々しく弾くよりかは、ある程度開放的な響きになるよう、手から腕の反動を使って打鍵すると良いでしょう。その後8分音符は決して急がず、また厳格になりすぎず、自然なテンポの揺れを伴った滑らかなレガートで。決して音の粒が際立たないようにタッチはまるでパン生地を薄く伸ばすような力加減で弾きましょう。 

第一主題「ドレファシラソ」はドからソにいきつくまで段階的にdim.をかけます。その後の最高音分メロディーと和音部分のコントラストは明確につけましょう。同じ音質で弾いてしまうと平坦な音楽の印象を与えてしまいます。比較的淡々としたパッセージですが、少しワルツ風の舞曲をイメージできると、退屈さを軽減できます。

22小節目以降は大きなフレーズの中でテンポの揺らぎを発生させ、推進力を前に持っていくように弾きます。24〜25小節目の左手は、それぞれのフレーズの第一音は少し長めに引っ張るようなテヌートをつけつつ前のめりにテンポを持っていくと良いでしょう。 

32小節目の即興的なカデンツァは、決して力を入れることなくleggieroで。36小節目からは次第に激しさを増すパートになりますが、36〜38はその片鱗を見せずにぐっと堪えて。39の4拍目から一気に2段回ほどテンポのギアを上げます。

40小節目からは左手のオクターブがしっかりと聞こえるよう、右手休符を必ず取り、ペダルも明確に変えます。48小節目第一音まで速度を上げますが、暴走しないためにも速度の上限を予め決めておき、それ以上にならないようコントロールしましょう(付点四分音符=84辺りが望ましい)。

一旦最高速度に達した48以降はテンポ感を維持し、54〜55小節目で再び盛り上がりを見せた後、アルペジオはそれぞれのフレーズの一音目を強調し、音型に沿ったディナーミクをつけつつ63小節目の転調をきっかけとして第二主題へディミニュエンドをかけていきましょう。

第2主題(提示部の続き)

68小節目より、非常に美しいメロディの第二主題に移ります。Meno mossoとある通り少しテンポは落とすのは勿論ですが、決して淡々とパッセージを過ぎ去ってしまわないよう、繊細にニュアンスをつけていきます。仰々しいテンポルバートは必要ありませんが、達筆な字のとめ・はね・はらいの様に各フレーズのつくりや処理を美しくすることが大切です。 

主題の右手パッセージの音程間に目を向けてみましょう。上行下行がもちろん前提としてありますが、その音程は2度進行か3度以上進行か、はたまた半音階進行か刺しゅう音か、または同音か・・・に目を配ると、ニュアンスの付加についてのヒントが見えてきます。 

  • 2度上行→ cresc. しつつテンポは前へ 
  • 3度以上下行→ dim. しつつテンポは後退、フレーズ最終音ならば落ち着かせる。
  • 半音階進行→ テンポは前のめりに 
  • オクターブ跳躍→ 強めのルバートで、間を取りながらやや次の音を強く
  • 同音程→ 回を追うごとに強調していく。決して同じ温室にならないように

など、余すところなく音ひとつずつ色彩をつけるようにタッチをコントロールできるまでこだわってください。 

82小節目からは、比較的テンポ感は一定のほうがよいでしょう。3連符がきつくなりすぎないよう、多少雰囲気をまるめるためにもテンポは落ち着かせましょう。 (次のページへ)

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執筆者

ピアニスト・作曲家。パリ・エコールノルマル音楽院ピアノ科高等教育課程および高等演奏課程を修了。在学中にブルーノ・リグット氏に師事。国内外のコンクールで実績を重ね、国内各種ピアノコンクールの審査員も務める。
ピアノをはじめ、ヴァイオリン、和声、音楽理論、作曲法など幅広い分野の指導を行う。演奏技術や表現・解釈の習得だけでなく、音楽構造の理解や創造的思考も重視した総合的な教育を実践している。
演奏家・作曲家としての経験を教育に活かし、フランス作品を中心とした幅広いレパートリーや作曲創作の現場で培った知識と技術を、生徒の学びに直接還元している。

公式サイト:https://masakazu-shiokawa.com

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