概要
ラヴェルのピアノ作品は技術的に高度な曲が大半を占めますが、この「ソナチネ」はそんな作品群の中でも比較的取り組みやすい楽曲です。「ソナチネ」というと、所謂「ソナチネアルバム」のような学習教材を思い浮かべてしまいますが、決して容易に弾ける曲ではありません。古典的な形式に忠実に沿いながらも、ラヴェルらしい緻密で繊細なハーモニーが散りばめられています。
参考演奏
第一楽章
提示部①
第一主題は音域の両端にオクターブとして配置され、内声部が伴奏の役割を担っています。やや左右の手が重なるなど弾きにくさもあるので、運指は慎重に。また、メロディラインを極力レガートで弾くために、指の入れ替えなども面倒臭がらずに行います。

内声は控えめな音量で弾くのは当然のことながら、コントロールは非常に繊細で難しいでしょう。なるべく指が鍵盤につきっぱなしとならないよう、指の重さだけで軽く落として弾くことによって透明性のある整ったアーティキュレーションとなります。
主題が2回繰り返された後、6~7小節目では主題が展開され、全体的な音量としてはやや大きめ、左手が伴奏となることによって響きを多少重厚にし、高音部のメロディはなるべく響くようにアタックの速度を速めにするとよいでしょう。音型にしたがった滑らかな強弱法も忘れずに。

9小節2拍目~10小節目は少し前に行くように流れを作り。11小節目のアルペジオは最低音からひとつずつていねいに打鍵します。1拍目はフォルテ、2拍目をやや控えめに、というパターンを11と12小節で二回ほど繰り返し、たっぷりラレンタンドとディミニエンドで落ち着かせたら、第二主題に入ります。
提示部②
13小節目より第二主題が始まります。このパートも西武がはっきりと分かれており、立体的に聞かせるため高音部のメロディと内声・伴奏部とではっきりと音質の違いを出しましょう。

*en dehors(アン・ドゥオール)とは・・・本来は「外に」という意味の副詞。音楽用語では、指定のパッセージを目立つように強調して、他の声部に埋もれないように、と捉える。(尚フランス語の口語表現でDehors!と言うと「出ていけ!」という強い表現になるので注意)
17、18小節目はエコー効果で少し音量を控えめにすると良いでしょう。続く推移部の”un peu retenu”(少しゆっくり)では、裏拍をよりしっかり感じてみることで落ち着いた雰囲気を醸し出せる。間違っても2拍目は重くならないよう、毎小節デクレッシェンドをかけ直すことで繊細さを保つことができます。
23小節2拍目のフェルマータは、思っているよりも長く取りましょう。続くコデッタは、まるで深呼吸の吐く息と同時にデクレッシェンドをするような息遣いで。決して指や手首を振ってぶつけずに、1音目で重く深くタッチをしたら一気に脱力を行います。

1番括弧に入るのであれば、27から28のスタッカートまでは若干テンポを緩め、第一主題の最初の音を鳴らした瞬間元の速さに戻るようにすると自然な形で冒頭にリピートができます。2番括弧に進む場合、オクターブのミの音を先ほどの長2度の重音以上に鐘の音らしく弾みを持って鳴らしましょう。
左手にはオクターブのメロディラインが存在していますので、手の大きさが一定以上であれば”レミファ レドミ”のパッセージの下部音の運指は5、4、3、5、4、5となるべくレガートの形になるようにすると滑らかになります。
展開部
34小節目から展開部に入ります。提示部冒頭との違いは転調だけではなく、強弱的にはやや大きめにして少しテンポは前に行くように維持しておきましょう。音量の幅を最初よりも大きくしてダイナミックにするために、各フレーズ内のクレッシェンド・デクレッシェンドは意識してつけましょう。

37小節から40小節にかけてタッチはやや硬く、高音部メロディはしっかり鳴り響くように打鍵するとよいでしょう。
41から42にかけて、一拍ずつ刻みながらテンポダウンさせた後、43小節目から51小節にかけてテンポを持続的にアップさせていきます。43の時点で少し前のめりに弾くとよいでしょう。3小節で一つのフレーズになっているので、なるべくそのレガートは途切れないよう運指を工夫してください。43から47はフレーズ感を意識するため、あまり拍を感じないようにしましょう。

一旦acceler.がついたら、48から一拍ずつの刻みを感じてテンポアップを行うとよくコントロールが効きます。Anime(活発に)との指示がついてもまだ少し前のめりのテンポ感で。55から4小節に渡って一気に減速とディミニエンドをかけて再現部に移行します。
再現部
59小節目から再現部に移ります。全楽章を通して、古典的なソナタ形式をきちんと踏襲しているだけあり、しばらくは1楽章冒頭と全く同様の進行をみせます。
唯一、再現部に移った直後はやや音量を主張して、62小節目のアウフタクトからテンションを冒頭と同じようにピアニッシモに落としましょう。69・70小節目推移部にてイ長調→ホ長調→嬰ハ長調→嬰へ長調、と一拍単位で転調していきます。毎回Ⅴ7の和音が使われているというのもあり、一拍ずつ和声の響きをとらえながら丁寧なアルペジオで進行していきましょう。

71小節目から第二主題が嬰ニ短調で始まり、83小節目までは提示部と同様の進行をみせます。84小節目からは曲の最後まで最大限ブレーキをかけていきます。この時、8分音符ずつ拍を数えるとよりコントロールのきいた減速をおこなえます。
最後の「Lent」では8分音符がBPM=54前後になるまでテンポを落として、たっぷりと余裕のある音の響きを感じてください。